とっさに考えたのは、邪魔をしないように、この場から去ること一つ。


──邪魔? 

そもそも、何で邪魔なんだ? 

二人は恋人でも何でもないのに──。


だいたい、『恋人』という単語が出てくることすら、変だ。

借りにあの二人が恋人だったとして、何が悪いのか?

もともとメンバーだった訳だし、もう和解したんだし、仲良くしていたって不思議じゃない。

困ることなんて、何も──


踵(きびす)を返して歩き始めてから、何度もそう言い聞かせたが、織理江から遠ざかれば遠ざかるほど、納得がいかなくなっている自分がいた。


何でこんなに悔しいんだろう?

ただ、二人が一緒にいただけのことなのに……。


話の種に、付き合ってるのかと聞けば話しは早そうだが、思いも寄らない返事をされてしまったら、上手く話しを続けられないかもしれない。



『恋助、あたしのこと……女の子として見てくれたことある?』



ふと織理江の言葉が脳裏をよぎる。


昔は『坂月亮太』だったという過去を知っていたから、気軽に付き合ってこられた。

まるで順二と遊んでいる時みたいに、ざっくばらん──悪くいえばデリカシーを欠いて、オープンに。


でも、順二は。



『あたしが「坂月亮太」だって順二は知らないから、
女の子として見てくれてるけど──恋助はどうなの?』



彼はその事実を知らないから、何の迷いもなく、一人の女性として織理江を物にすることだって、あり得る。


想像に過ぎないけれど、織理江と順二がそんな関係だったらと考えると悔しく感じてしまう。



『──恋助はどうなの?』



だったらあの時、ちゃんと答えてやれば良かった。



「俺かて想ってるわ、あほ……」