恋助の部屋を飛び出した織理江は、他に行くあてもなくデパートにやってきた。


本当なら今日は、誕生日パーティの買い物をした後、前に恋助と二人で楽器屋に行く約束をしていたのだが……

もうどうでもよくなっていた。


いつもは大学の友達や恋助と来るデパートも、今日は久々の一人。

洋服や化粧品、雑貨屋など、様々な店を自分のペースでじっくり見ることができた。

話し相手はいないけれど、これはこれで充実している気がした。



CDショップを訪れた時ふと腕時計を見たら、もう2時間も経っていた。

携帯電話を見たら、恋助から『今どこ?』というようなメッセージが来ていたが、返信しない。


「ちょっと心配してもらおーっと」


電話をしまって、好きな女性アーティストのCDを手に取った。

芯のある力強い歌声とビブラートが魅力的で、いつも憧れていた。

こんな歌い方ができたらなあ、と真似して歌ったこともある。


そう言えば、恋助も好きだって言ってたな……


思わずそんなことを考えていたことに気づき、慌ててCDを戻す。

今は恋助に怒ってるんだから、恋助のことなんて考えちゃいけない──と内心でぼやいた。

ふと、店内に目をやると、見覚えのある横顔を見つけた。

スタイリッシュな服をまとったその青年は。


「順二……?」


歩み寄って声をかけると、順二が驚いたように振り返る。

そして、順二は織理江の周囲を見回して、『誰か』を探しているようだった。


「……また待ちぼうけ食らってんの?」

「ううん、今日は一人」

「へー、珍しい。まさか、ケンカしたとか?」


心配でもするみたいに声を落として尋ねられたので、織理江は何だかおかしくて苦笑した。