真っ黒な空から、雪が降っている。


このまま降ってくれたらホワイトクリスマスが楽しめるのに、やがてやんでしまうのだと思うと寂しくなった。


織理江はいつも練習する川沿いの土手にしゃがみこんで、冷たいギターを弾くともなく弾いていた。

ぼうっと河を眺めていた彼女を、ポケットの携帯電話が現実に呼び戻す。


『おー。織理江、今どこにおるん?』

「遅―い。いつものところ」

『ホンマに!?  待たせて悪いな』

「ううん。癒威ちゃんたちは?」

『今一緒! あと5分で行く!』


電話が終わると、ふっと笑った。

きっと、うっかり寝過ごしでもしたのではないかと大体の予想はついていた。

待ちぼうけを食うのは、毎度のことだと言っても過言ではない。

織理江より後に来て、面白おかしい言い訳をひねり出してくれる。

全部ウソなのは言うまでもないが、それを聞くのが楽しいせいで、全く気にならなかった。


広げた譜面に、白い雪が降ってくる。

月明かりと、頼りない街灯の光を受けながら輝き、溶けずに紙をサラサラと滑って、草原に落ちていく。

その様子を見ながら、どんな詞を書こうか考えていた。


その譜面にすっと、影が降りる。

出し抜けに現れて光を遮った男は、順二であった。


驚き見上げていると、順二は遠慮がちに手を振った。


「練習? 恋助は来てないの?」

「あと5分で来るって」

「ああ。あいつの5分は10分なんだよな」


順二が言い、二人は笑った。