「同じグループだったことは聞いてるだろ? 
俺と恋助が最初に出会ったのは高校の時。その頃から少しずつ歌ってて……笑っちゃうけど、俺たち結構いい線いってると思ってたんだ。
けど、大学に入った頃、織理江が現れて。俺たちの歌も関係も、微妙に変わった。良い方にも、悪い方にも。織理江の存在は大き過ぎたんだ。
織理江が作る歌は、なんていうのか特別で、俺たちの歌そのものは成長していくけど、三人の気持ちは壁を挟んだみたいに分離してた。
もともと男二人の歌にはなかった異物感っていうのかな……」


真実を言えば、異物と言われれば異物なのかもしれない。

恋助と順二との間に『彼女』の歌が混入して、微妙なバランスになったのは確かだ。

恋助と織理江の相性は抜群だが、順二と織理江はどうだったのだろう……?


「でも、微妙な関係が本当に崩れたのは、それからすぐだった。
今まで歌手目指してやってきた剣崎が、突然、このままでいいって言いだした。それも、織理江の影響かもしれない。だから俺は、二人と別れた。二人も笑って背を押してくれたよ。
それからはずっと一人で、いろんな所で歌った。
でも、しちゃいけないことをしたんだ」


俯いて、顔を覆った。


「三人で歌った曲を、そのままそっくり自分の持ち物にして、音楽界の目を引いた。
二人はもちろん、すごく怒ったよ。俺は、仲が裂けて当たり前のことをしたんだ」


それが二人の間を完全に裂いた事件か……。


「でも……その歌で注目されたのなら、良い評価がもらえたってことですよね。三人の歌には変わりないんだし、もう一度やり直すことだって──」

「自分から抜けた奴に誘ってもらいたくなんかないだろ。恋助のプライドを傷つけてしまう。それより何よりも、歌を自分の持ち物にしたっていう事実があるから」