「いらっしゃいませ、こんばんは」


入ってくる客に明るい挨拶をかける。

その客は目当ての商品を手に取ると、真っ直ぐにレジに来た。

そしてカウンターから目線を上げ、癒威は目を丸くする。


(順二さん……?)


順二は周囲に気兼ねして、小声で言った。


「この前、剣崎たちと一緒に歌ってたよね」

「は、はい」



順二は申し訳なさそうに目を伏せた。そして支払いを済ませた後、さらに小声で言う。


「ちょっと話せるかな」


癒威は背後の時計を振り返る。あと少しで上がりだ。


「少し待ってもらうことになりますけど……」

「構わないよ。じゃあ、この近くの公園で」







仕事が終わると急いで店を飛び出し、近くの公園に向かった。


冷たい空気が頬に刺さる。

待たせてしまって、本当に申し訳ない気持ちになった。


ジャングルジムの下の方に寄りかかっていた順二が、手を振っていた。


「お待たせしました、寒いのに、すみません……」

「いいよ、謝るのは押し掛けた俺の方だし。剣崎たち、また来るかなと思ってたんだけど、なかなか会えなくて。そしたら君のこと見かけてさ。急にごめん」

「いえ……。順二さんの方は新しい仲間、見つかったんですか?」

「どうして俺の名前?」

「剣崎さんが」


恋助の名前を出した瞬間に、順二の表情が曇る。

何か、2人の間にはもっと事情がありそうだ。


癒威もジャングルジムにもたれかかった。


「剣崎さんと順二さんって……」

「仲が悪そうに見えるだろ」


ふっと笑って、一度癒威に視線を落とした。


「犬猿の仲ってヤツなのかも」

「何があったんですか?」