「ちょっと!やめてや!
 俺がなんかやらかしたみたいやんか!
 わかったから!な?
 ほら、譲るから!」

「…よかったあ。ありがとう」

「君…そんなにコレ要る?」

「要ります。
 あたし、立石槙さんの
 本の愛読者だから」
 
「…そう。でもさ、
 コイツの本は大概、暗いやろ。
 まったく売れる気配ないし。
 マイナー中のマイナーやで。
 何がええの?」

「この人の本は…
 持ってないものが全て
 満たされる気になるから」


立石槙の本は登場人物が
死ぬことが多いし、
不幸な出来事ばかりの内容。

だから、あたしが居る世界は
そんなに悪くないかもと思える。
むしろ素晴らしく輝いてさえ見える。

読んでいくとあたしの脳が麻痺する。

あたしにとって痛み止めみたいなもの。

心を緩和してくれる。