「君、いかにも幸薄そうやもんな」

…ム。

「…さっきから失礼ですよね。
 立石槙さんの本買おうと
 してたくせに暗いだとか、
 売れないとかマイナーとか
 幸薄そうとかっ!」

「ハハハッ。まあ、落ち着いて。
 俺にとっては誉め言葉やねんから。
 傷つけられてる子は大好物」

「……変態」

「君こそ、そんな本に共感するなら
 ドMやで。同じ変態」


あたしだって
傷つけられたいわけじゃない。


「…あ!急がなきゃ…
 さよなら」

「なあーっ!」

あたしはクルっと振り返る。

「?」

「《君は君じゃない》」

「………《僕は僕じゃない》?」
「そう。
 《君は直線上の先に何がみえる?》」


立石槙さんの本の引用。
偶然にもあたしが
一番好きな脇役のセリフ。


あたしの直線上には
大きな黒岩で隠れて、
先が見えなくなってる。

「ナツ。遅いから迎えに来た。
 心配したよ。」

「ユウト……ごめんなさい。
 本なかなか見つからなくて。
 在庫まで探してもらってたの。」