「真央ちゃん。ちょっといいかな」




夕飯の仕度をしていると、昌彦さんが私に手招きしてきた。


エプロンをしたまま、パタパタと近づく。



「あ、私が怖かったら、距離を取ってもいいからね」


優しく言ってくれる昌彦さんに、思わず笑顔になる。



「ありがとうございます。でも、昌彦さんは怖くないんです」


そう言うと、嬉しそうに笑った。



その口の形と、細くなる瞳が蓮に似ていて


やっぱり親子なんだなぁと実感。




「家族旅行のことなんだけどね、今いくつか場所の候補が出てるんだ。真央ちゃんは何処に行きたいかな」



リビングのテーブルにズラリと並んだパンフレット。
表紙を見る限り、外国みたい。


近いほうがいいな。
「えっと…」

パンフレットを手に取り、パラパラと中を眺める。

これはニュージーランドかぁ。わぁ。海が綺麗。

こっちはスイス?アルプス山脈見たいかも。あ、それとチーズ食べたい!

それとも、ハワイ?アメリカもいいかな。カナダのメープルシロップ、パンにかけて食べたいな。

またはオーストラリアで、カンガルーの肉とかワニの肉とか食べてみたい。




って、さっきから食べ物ばっかり!


「ははは」

「ん?」

パンフレットとにらめっこする私を見て、昌彦さんは朗らかに笑う。

「真央ちゃんはコロコロ表情が変わって面白いね」
「え、顔に出てました?」

咄嗟に額に手を当てた。


「うん。百面相していたよ。あ、ほら今も」
「は……恥ずかしい」
「あははは。可愛いね」


ほんのり熱を持った頬。


と、そこにピトリと冷たいものが触れる。













「父さん。真央さんをからかうのは止めてくださいね」