「一ノ瀬は、親御さんの仕事の都合で長いことアメリカで暮らしていたそうだ。慣れないことも多いと思うから、みんな親切にするように」



担任は教室を見回してそう言うと、今度は二湖の方を向いた。



「一ノ瀬はまだどちらか決めてないんだな?」


「え?あ、はい…」



どちらか、とは『キング』か『ナイト』かということだろうか。


だとしたら、諒介の言ったように先生たちはそれを黙認しているということか。

その無責任さに少し腹が立ったけれど、とりあえず編入初日から問題を起こすわけにはいかない。


二湖は無理矢理に笑顔を作った。



「それじゃあ、所属が決まるまでは、空いている席に座ってくれ。獅堂院の隣だな」



担任が指差した場所は、キング側の一番後ろの席だった。


隣には、まるで日本人形のような黒髪ストレートロングの美少女が座っている。

二湖がそそくさとその席に移動すると、美少女はにっこりと笑って言った。



「獅堂院密【しどういんひそか】だ。よろしく」