ノックなしで無遠慮に部屋に入ってきたのは間違いなく龍之介の実姉である百合で。
その手に抱えられているのは救急箱。
どうやら龍之介の帰宅に気付き手当てをしに来てくれたらしい。
とはいえ今の龍之介は必要としていないそれ。
だが、断ることも出来ない。
我がもの顔で龍之介の部屋に上がり込む百合は、この家一番の権力者である(と龍之介は思っている)。
「…おい。お前はプライバシーって言葉を知らねぇのか」
「え、あんた自分にプライバシーがあるとか本気で思ってんの?」
ハッと鼻で笑いながらまるで天下人のような顔で龍之介を見下す百合。
完全なる女王様の降臨だ。
そんな百合に龍之介はわざわざ聞こえるであろう大きな舌打ちを返すと再び枕へと顔を埋める。


