しかし、そうわかっていても思うようには動いてくれない優衣の手。

震える指先は、小さなそのボタンを押すことが出来ない。


数十秒その体勢のまま固まっていた優衣だが、結局発信ボタンを押すことは出来なかった。

変わりに電源のボタンを数回押した後、パタンと閉じられてしまった携帯電話。


もう、何度同じ行為を繰り返しただろうか。

一体何通送ることの出来ないメールを作ったのだろうか。


そのたび今度こそはと思うのにあと一歩が踏み出せなくて。



もし無視されたら。

着信拒否されていたら。



そう思うと怖くなり、気付けば電源ボタンを連打する日々。




(何で、出来ないのぉ…っ)




カシャン...



無機質な音が優衣以外誰もいない静かな屋上に響く。