ついこの間まで当たり前のように隣にあった優しい声が聞こえてくることはない。


頭を撫でてくれる手も、抱き締めてくれる大きな体も見当たらない。


その事実に息が詰まりそうになりながら、優衣はゆっくりとポケットに入っていた携帯電話を取り出す。

そしてそのままカチカチと操作しだした。


電話帳から呼び出したのは、今では一番見る機会が多くなった龍之介の名前で。




「………」




あと一歩。

あとボタン一つ。


それさえ押せば龍之介の電話に繋がる。


たった…ほんの一秒程度の行動。


龍之介が出てくれるかどうかはわからないが、少なくとも可能性を作ることは出来るのだ。


会うことすらままならない今。

やってみる価値は十分にある。