(やだ…っとまれ、とまれ…!)




両腕で涙を拭いながら、必死に自分に言い聞かせる優衣。

じわりと袖が濡れていくのがわかる。


しかし優衣の頭上から聞こえてきたのは、そんな努力を全て無視するような大きな溜息。


耳へ届いたその音に、優衣の中の何かがガラガラと盛大な音をたてて崩れた。



次に顔を上げた瞬間、優衣の瞳から涙は消えていて。


代わりに顔に貼りついていたのは歪な、しかしとても綺麗な笑みだった。


それはまるで全てを覆い隠してしまうような綺麗な微笑み。


その笑みに、二人のやり取りを黙って見ていた夏希と健の顔が僅かに歪む。




「ごめんなさい!泣いちゃだめだよね。うん、迷惑だもん。迷惑かけて、ごめんなさい」