しかし、今の優衣には言うべき台詞もわからなくて。
何を口にすべきなのか。
優衣の頭の中はぐちゃぐちゃだ。
(だって、だって…っ)
喉の奥で詰まる音。
声にならない思いは涙となって浮かび視界を歪ませた。
「言いたいことがあるならはっきり言え」
「………」
「それとも、俺には言えねぇ何かがあんの?」
「…っ」
龍之介のその言葉にビクリと大きく肩が揺れる。
そしてぎゅっと強く目を瞑った優衣。
言えるわけがなかった。
嫌でも感じてしまう黒い気持ちを。
一言口を開けば言ってはならぬ言葉を口にしてしまいそうで。
井上を蔑むような、父親と同じような酷い言葉を吐いてしまいそうで。


