目の前の男は一体誰なのか。


そう頭を悩ませたのもほんの一瞬のこと。

すぐにどうでもいいか、と思考を切り替えた龍之介は"すんません"て短く謝罪して再び歩きだす。


今の龍之介にはどうでもいいことに費やす時間も思考もないようだ。


しかし




「…んだよ」




歩きだしたと同時に強く捕まれた右腕。

いきなり殴りかかられるよりはましだと思いながらも、その行為に龍之介は顔を顰める。


自ずと低くなる声と鋭くなっていく視線。


そんな龍之介の反応がお気に召さなかったらしい男は、負けじとその切れ長の目で強く龍之介を睨み付けた。


互いに睨みをきかせる姿は、まさに敵を目の前にしたときの獣そのもの。