小さな頃から何度も繰り返されてきたその優しい行為。
龍之介とはまた違った暖かさをくれるそれは、本当の兄のようで。
体に馴染んだその暖かさに、優衣は無意識のまま胸の奥に引っ掛かっていた彼女の言葉を口にした。
「…っ井上、さんが…ヒック…龍くっ…気紛れだっ、て…」
優衣の口から紡がれた言葉にぐっと顔を顰める健。
そんな健の変化に気付く余裕のない優衣は俯いたまま言葉を続ける。
「す、捨てられないように…ぅぅ…頑張れって…言わ、れて…」
言い終わった優衣の脳裏を過るのは、薄く綺麗に笑った井上の姿で。
綺麗すぎるが故なのか、それとも感情が映し出されているからなのか。
思い出す彼女の表情はとても、怖い。


