「…うん、来れた!」




手を伸ばせば触れられる距離で優衣は龍之介を見上げながら満面の笑みを浮かべる。


そもそも方向感覚など皆無の優衣が、たった一度来たことがあるだけの屋上に一人で来るなど普段なら不可能に等しい。


しかし、そこで龍之介が待っているのだと思えば、優衣も屋上に辿り着かなくてはと必死だった。




(だって…会いたかったんだもん…)




「よしよし。明日は一緒に来るから」




そんな優衣をわかっているのか、龍之介は犬にご褒美をあげる主人のように優衣の頬を両手で挟み撫でてやる。



実はその頬に触りたかっただけだという真実を優衣が知ることは一生無いのだけれど。