――自分にしては柄にもなく難しいことを考えているな。

どうしてだろうか。

どうしてリンをこんなにも儚く感じてしまうのだろうか。





「ナオキさん、次ですよ」

リンが言った。

「あ、……ああ」

「――はい」

リンが貸してくれると言った本を差し出してくる。

「どうぞ」

「ああ、ありがとう」

オレはとりあえず、その本をカバンに入れる。

バス停はすぐそこだ。

オレは席を立つ。

「それじゃあ、また明日な」



「――そんなに悲しそうな顔をしなくてもいいじゃないですか」



え?

オレは今、そんな顔をしているのだろうか。

「また明日」

そう言ってリンは。

微笑んだ。

――その笑顔で安心する。

嬉しい。

そうだ、リンはここにいる。

なにを心配することがあるのだろうか。

もしかしたらオレは、単にこうやってリンと別れるのが寂しかっただけなのかもな。

……その感情は、なんて言うのだろうか。

そう考えると、なんだか恥ずかしくなった。



だって――たった一つの理由しか思いつかなかったから。

オレがリンを好きだって理由しか思いつかなかったから。



うわー、恥ずかしい。

「じゃああああな」

挙動不審に、オレはバスを駆け下りた。

意識したら、リンの顔なんてまともに見られない。



オレ、なんかバカみたいだな。

そう思うと、笑いがこみ上げてきた。