バスの時間になったのでオレとリンは部室を後にした。



「七夕ですか……」

バスの中、リンが感慨深くつぶやいた。

……結局のところ、一人何枚も短冊を書いたおかげで誰がなにを書いたかなんてわからなかった。

それでも、その一つ一つは願いなのだ。

「……叶うといいですね」

リンはまたつぶやいた。



オレにはリンがなにを考えて言っているのかわからない。

だが『人の行動には必ず意味がある』。

リンの言葉だ。

一体リンはなにを思っているのだろう。

オレはそんなことが気になっていた。

……なにより、話しかけられる雰囲気ではなかったから。

リンはただ窓の向こう、後方へ流れる景色を見つめていた。

まるでそのまま景色と共に流れていきそうな、その幻想的な表情が、オレの口を重く閉ざした。





「ナオキさん」

突然、リンが口を開いた。

「な……なんだよ」

リンの瞳は真剣そのもの。

どこまでも深く、純粋。

「……この本、読んでみませんか?貸しますよ」

リンはカバンの中から一冊の本を取り出した。

いつも読んでいる短歌集。

それをリンはオレに貸してくれるというのだ。

さっきまでのリンの儚げな表情を見ていたオレは、

「……借りるよ」

リンをもっと身近に感じたかったのかもしれない。

この本を読んでリンを感じ取りたいと思った。

『人の行動には必ず意味がある』のだから、リンがオレにこの本を貸そうと思った意味を、知りたいとも思った。