バスの中が一通りの学生服でいっぱいになったころ、藤沢が乗り込んできた。
「よ、藤沢」
「藤沢さん、おはようございます」
「おはよう、二人とも」
挨拶をして、藤沢はオレの座席の背もたれに手を置き、荷物を下ろす。
それから、ふう、と息を吐きながらネクタイを少しゆるめる。
根がまじめな藤沢なのでゆるめてもオレと同じくらいだ。
「……一段と夏っぽくなってきたね」
「あつは夏いな」
「あ、藤沢さん、今日提出課題ありましたよね」
「オレの夏季限定をスルーするなよ」
「数学難しいよね」
「そっちもスルーするな」
……これが日常だ。
いつものこと。
毎日。
安定していると安心する。
オレにとって今の生活は居心地がよかった。
寒い冬で、ガマンして入っていた布団がやっと暖かくなってきたみたいな……夏にするたとえじゃないな。
とにかく、こんな日々がずっと続けばいいって思う。
ありがたみなんて感じないけれど、これはきっと尊いことなんだ、と難しいことを言ってみる。
これを普段のオレならこう言うのだ。
「毎日がエブリデイ」
「特に最後の問題が難しかったよね」
スルーするな。



