「――海の向こうには何があると思います?」
リンが真面目そうに言った。
そんなもの、決まっている。
「陸。外国だな」
海の向こうにはオレたちと同じで、オレたちとちょっと違った人たちが住んでいる。
その人たちが作った国がある。
「……ナオキさんは、その外国に行ったことありますか?」
「いや、ないが」
リンは窓の外の遠くを見た。
「……自分の目で見たことのないものが、本当にそこに存在すると言い切れますか?」
確かに、その外国というものを見たことがない。
もしかしたらオレは嘘を教え込まれていて、海の向こうには何もない、海しかないことだってあるかもしれない。
「もしかしたら、水平線が世界の端っこなのかもしれませんよ」
昔の人はそう考えていたらしい。
確かコロンブスの航海で世界はつながっている、丸いことがわかったんだっけ。
そう、今は証明されている。
地球は丸いのだと。
「そんなこと考えてもいいのは中学二年生までだぜ?」
「……そうですね」
リンは小さく笑った。
そして、続ける。
「でも、私はたまに思うんです。自分の世界は観測できるまでしかなくて、水平線の向こうは存在しないんじゃないかって」
オレも考えたことがある。



