夕食は別の部屋だ。
エレベーターで二階に移動する。
大広間ではなく一組ごとの部屋らしい。
文芸部様と貼り紙がされた部屋に入る。
和室、低い机の上には座布団、膳が五つずつ並べられていた。
そこに家庭料理と違い、小皿にちまちまとした煮物などが並んでいる。
あと、固形燃料が火力の小さい鍋。
――そこに、部長を抜いた文芸部メンバーがそろった。
「……やっぱり部長はいない、か」
確かキョウスケの知り合いがこの旅館を経営しているんだった。
なら、別の部屋で夕食を取るつもりなんだろう。
オレたちは席につく。
……空気が重い。
それはそうだ。
さっきまでケンカしていて、その片方が欠席しているのだから。
「まあ、その、あのね!」
カナコが無理に取り繕おうとする。
「ほら、せっかく合宿に豪勢な旅館に来たんだし、楽しもうよ!」
だが、空気は変わらない。
まるで部屋の中に大蛇がうごめいているみたいだ。
長い沈黙。
これはオレが空気を変えないと。
どうする?『お琴割りだッ』って断ってどうする。
オレは考えていた。
しかし、
「無論そのつもりですよ。――醤油とってください」
リンが言った。
……リンはけなげだと思う。
リンから空気を変えようとしていっている。
だったら、オレもそれに便乗しよう。
「まあ、どうにかなるだろ。――醤油とってくれ」
醤油注しがオレの手に渡る。
気楽な奴を無理にでも演じる。
それがオレたちの役目だろうな。
エイヤはオレのとなりで小さくうなずく。
わかってくれたか。



