「気が済んだ?」
カナコがキョウスケに聞いた。
「やめてくれたまえカナコ君。まるでワタシが悪者みたいじゃ……」
キョウスケが周りの顔色を見て、口を噤んだ。
オレはとっさに目をそらす。
すると、キョウスケのことをにらんでいるリンが見えた。
まるでキョウスケのことを非難するように。
キョウスケはオレたちが泊まる旅館の方を向いて、
「ああ、そうだったね」
一言置いて、去っていった。
残されたのは、部長が欠けた文芸部。
「大丈夫ですか?」
リンが倒れているエイヤに尋ねる。
「すまん。……大丈夫そうにない」
これじゃあ旅館に戻れないんじゃないのか。
「肩貸そうか?」
「……別にいい」
エイヤは断った。
……オレに肩を貸してもらってまで帰る自分がみっともなく感じたからだろう。
それはオレだって嫌だ。
悪いことを聞いてしまった。
日は暮れ、海は穏やかだった。
風が冷たくなってきていた。
サヤはエイヤのことを抱きしめていた。
衣服に染みを作りながら。
エイヤが頭だけを動かし、サヤのほうを向いて、言う。
「……俺はお前のこと、守れなかった……」
「違う……!エイヤはあたしのこと守ってくれた……」
サヤは、泣いていた。



