いや、当たり前なのだが。
被害者が増えるぞ。
オレは思い出していた。
なぜ、小学校の遠足は最初遠回りをするのか。
それは、帰りを楽なように見せるためだった。
オレは今、それをありがたいと思った。
「波もあるので帰りは速いです、がんばりましょう」
そ、そうか。
右側だけオールをこぎ、オレたちは小島のほうに向いた。
このままバックで埠頭まで戻る。
そして、オレたち全員がこぎだした。
「1、2!」
「1、2!」
また、さっきの繰り返し。
そこで、不意に背中に何かがもたれかかった。
なんだろう。
……当たり前の反応で、振り返った。
そして、それも当たり前の事だったのだが――リンがオレに体重を預けていた。
「おい、リン……」
こんなときにふざけるな、と思ったが。
――こんなときに、リンがふざけているわけがなかった。
「大丈夫か、リン?」
つまらない質問かもしれない。
「……ううっ」
さすがに背中で吐かれたらまずい。
リンの体を支えながら、頭を船外に突き出す。
「吐いてもいいんだぞ、リン」
しかし、リンは吐かない。
その目線はただ海に落とされているだけ。
それに、体が小刻みに震えて……。
おかしい。
「おい!リン!?」
肩を抱きかかえても、体の震えは止まらない。
――まずい。



