そういえば、リンは?
オレは後ろを振り返った。
リンは顔を伏せていた。
「……大丈夫か?」
「……大丈夫です」
言うなら顔を見て言ってくれ。
全然大丈夫そうに見えないぞ。
こっちにも不安要素があった。
「それじゃあ隣の人と交代してください」
オレと藤沢は席を移る。
藤沢が内側、オレが外側――海側だ。
「では、みなさん」
インストラクターが意気込む。
「――あの島を目指しましょう」
インストラクターが指差した先。
もう距離感覚もはっきりしないが、五百メートル先に小島が見えた。
……遠いぞ。
「ではみなさん、はりきって行きましょう!」
はりきっているのはインストラクターだけだ。
船上には死屍累々、うなだれた生徒ばかり。
いや、
「頑張れよー」
担任、毎年来てもう慣れているな。
カメラ片手に笑顔は非常に腹立たしかった。
「1、2!」
「1、2!」
繰り返される、オールの前後。
頭の中のぐるぐるが大きくなってもう止まりそうにない。
くっ、我慢だ。
まだ目指した小島は遠いのだが、
「……もういい時間ですね。みなさん、今日は波が強くて小島までたどり着けませんでした」
波が強かったのか。
「またの機会にがんばりましょう」
もう嫌だ。
「それじゃあみなさん、戻りましょうか。――みなさんから見て右側の人、オールを出してください」
そう言われて、オレは気付く。
……え、行きと同じ方法で帰るのか?



