……目がうつろ。
「藤沢、しっかりしろ」
返事がない。ただの屍のようだ。
そのとき、
「ううっ……!」
いきなり顔を伏せた。
まずい。
もう限界のようだ。
「大丈夫ですかー?吐くなら海に吐いてくださいね」
インストラクターが平然と言った。
その言葉で堰を切ったように海に頭を出す藤沢。
……こちらからは見えないが、吐いた。
もらいそうになるのを我慢しながら、オレはライフジャケットの上から藤沢の背中をさすってやる。
「全部吐くと楽になりますよー」
インストラクター……。
うめく藤沢。
いや、藤沢だけでなくほかにも何人か海に顔を伏せている。
……平常を保ってきたオレだが、もうダメかもしれない。
「遠くの山とか見ていると気分がマシになりますよ」
そう言われて、遠くの山を見つめる。
あ、本当だ。
だいぶマシになった。
「……ごめん、ナオキ」
藤沢が復帰したようだ。
オレは山を見ながら、
「ちゃんと人から見えないようにしただけいいぞ」
と言ってやった。
「あと、ごめんじゃなくてありがとうな」
「うん、……ありがとう」
言って、藤沢は海に顔を伏せる。
もう全部吐いちまえよ。
そういえば、朝飯ヨーグルトサンド……。
「うっ……!」
その造形を思い出すだけで、吐き気がする。
変なこと考えるんじゃなかった。



