カッターが埠頭から離れる。

……かなり揺れてる。

視界が左右に、体が前後に振られる。

船酔い……しないよな?

揺れはバスよりもかなりひどいものだった。

しかし、先頭。

揺れているカッターの上でインストラクターの女性は平然と立っていた。

さすが、プロは違う。

「はい、それじゃあみなさん、順番にオールを立ててください」

内側に座っているオレがオールを立てないといけないらしい。

横たわっているオールを引き抜き、立てる。

オレの座高の二倍近くあるそれを倒れないように抱え込む。

「それじゃあオールを二人で持ってください」

オールの先を海に投げ出す。

ここでようやく藤沢がオールを持つ。

……そのとき、オールが後ろに引っ張られた。

いや、違う。

オールの先が海面に入り流されたのだ。

オレは慌ててオールの柄尻に体重をかけた。

てこの原理でオールの先が持ち上がる。

「……オールは合図するまで水平に保ってくださいね」

早く言え。

「……藤沢、ちゃんと持ってろよ」

オレは藤沢を見た。



目がうつろ。



オレは、大丈夫か、という言葉を飲み込む。

明らかに大丈夫じゃない様子だからだ。

「藤沢、持ちこたえろ」

「……わかってるよ」

藤沢の声はあまりにも弱弱しかった。