「注意力が足りないから足を滑らせるんですよ」
この暗闇の中じゃ注意力より集中力や危険察知能力のほうが必要かと思われるが。
大体、階段が長すぎて注意力が持たない。
いや、ちょっと待てよ。
「逆に走って下りたらこけなくないか」
「こけますから……きゃあっ!!」
リンの普段聞かない驚きの声を聞いた。
途端、隣の影が前方に投げ出されている。
――危ない。
反射的に手を出した。
暗闇の中。
その影をつかんで思い切り引き寄せた。
「……大丈夫か?」
暗闇の中でもリンの顔が、はっきりとわかるほど近くにあった。
どうやらリンの手を取っていたらしい。
やわらかくて、細い。
そんな感覚が、強くつかんだ手の中にあった。
「……はい、ありがとうございます」
リンはまだ驚いているらしく、どこを見ているのかわからない。
だからオレはいつものように、
「……注意力が足りないからこうなるんだよ」
おどけて見せた。
「すみません」
まあ下まで転げていかなくてよかった、うん。
安心していると、オレの手が引かれた。
そこで、オレがリンの手を強く握っていたことを思い出した。
「……すまん。痛かったか?」
手を離す。
「いえっ……!」
しかし、今度はオレの手がリンによって強くつかまれた。
……そもそも女の子と手をつなぐことがないオレにとっては心臓が飛び跳ねそうな出来事だ。



