「何で逃げるの?」
栗崎は少し体制を下げながらそれでもなお、近づいてくる。
チラっとさっきのヤンキーたちを見ると、うちらのやり取りを見て呆気に取られたような顔をしてる。
さっさといなくなればいいのに。
そんなことを考えてる場合じゃないのは百も承知だけど、今はただ栗崎から少しでも注意を反らしたかった。
だってもう……顔が近いんだって。
もう背中はとっくに壁に当たってて、目の前には栗崎がいるから、見る場所は限られてくる。
「あ。…お前ら、もう行っていいよ。ありがとな」
呆然と立ち尽くしてるヤンキーに向かって、栗崎がちょっと手を上げてみせると、おす!!と一言、バイクの爆音を響かせながら遠ざかった。
「さて。二人きりだね?」
怪しげな笑みを浮かべながら、うちの顔の横に手をついてもっと顔を近づけてくる。
「っ……」
言葉を発したら、栗崎の息がかかって、うちでさえ手も足も出ない。
なんでだよ……。
栗崎と絡むと、どうして自分じゃいられねぇんだよ…。
わけわかんねぇ……。
「ねぇ、稜ちゃん?」
少しでも口を動かしたら唇が触れるくらいの距離で栗崎は言う。

