それだけが原因だったわけじゃないけど、なんとなく岸田組には居辛くなって、置手紙だけを残して夜逃げ同然で出てきた。
「あの手紙、組長今もまだ持ってるよ」
あんなことがあったのに、うちも組長もいまじゃ普通に喋れるんだから、時の流れって怖いね。
「そうなんすか……」
「別に、もう一度お前に組に戻れって言うつもりはないから安心しろよな」
信二は笑って言った。
うちもいまさら組に戻れるなんて思ってないけど。
「じゃ、哲さんと組長の仲が悪くなったのは何で?」
「あぁ。哲の奴な?ハンパじゃねぇくらいお前のこと好きだったんだよ」
「へ…」
なんともまぁ素っ頓狂な声を上げて信二の顔を見つめる。
「俺も、ほかの奴らも同様にお前のこと、異性として好きだったんだけど、哲はお前以外目に入らないってくらい好きだったんだ」
うちってこんなにモテたっけかな??
頭の上にハテナを一杯浮かべながら信二の話を聞く。
「哲のことだ、そんなに大好きだったお前を殴ったことで自分を責めてたよ」
哲さんの性格から言えば、自分を責めることは間違いないかも。
「だから、あいつ……組長に辞表出してそのまま行方くらましたんだ」
そうだったんだ。
「その前の日、哲の奴組長に食ってかかって『稜が出て行ったのは、お前の所為だ!!』なんて怒鳴って」
それが原因で哲さんと組長の仲は険悪だったわけか。

