「哲からどこまで聞いたか知んねぇけどよ、お前がいなくなってから組の中がぎくしゃくするようになったのは事実だ」
それは、哲さんから聞いてたけど、改めて聞くと気が滅入る。
「哲ももちろんだけど、俺だって、他の奴らだってお前が入ってきたことで、やる気を起こしたりしてたんだ」
これは初耳。
うちは初めて入ったときから、この組は明るいとこだなと思ってたから。
「でもな?お前がただ単に家に帰りたくなったから組を辞めたんならみんな気にすることもなかったんだろうな」
「うん……」
そう、うちが組を辞めたのは単に家に戻りたくなったからじゃない。
ってか、家になんて2度と戻ってやらねぇと思ってたくらいなんだもん、その理由で組を辞めることはまずありえなかったんだ、そのときは。
「組長は、岸田組の方針をしっかり守って学校にも通ってるお前を気に入ってたな」
岸田組に入ったときに、組長から渡された1枚の紙には、岸田組のしきたり的なことが書いてあった。
例えば、学生であればしっかり学校に出ること。
理不尽な喧嘩は決して売らないこと。
縦社会はなしとする。
売られた喧嘩でも、できるだけ殴り合いはしないようにする、など。
一見不良がたくさん集まる組のしきたりとは思えないようなものばかり。
でも、この組に所属したからにはこのしきたりは必ず守らなきゃいけないから、うちもちゃんと学校に通ってたんだ。
仕方なく、だけど。

