「さ、ここに座ってろ。組長は奥だ」
事務所へ入る扉を開けると、目の前に机を挟んでソファが2脚。
そのうちの手前側に座って、組長を待つ。
ソファが2脚あるのは、この事務所がときに人助けをしてたからだ。
基本的には、奥側に組長と他の面子が座り、今うちが座っているところに、相談者が座る。
相談と言っても大抵ムカつくやつをどうにかしてほしいとか、夫婦仲が冷え切っている妻からの夫と別れる方法とか。
夫と別れる方法なんて聞かれても、こっちは不良だ。
適当にあしらえ、としか言いようがないし、ここは弁護事務所じゃないんだから、そういう相談は弁護士んとこ行きな、と言って帰してたけど。
「おう、稜。学校はどうしたんだよ」
不良に向かって学校はどうしたとか聞くなんて、頭おかしいんじゃないの。
そう思ったことは、絶対誰にも秘密。
「学校なんて休んでるに決まってるじゃないっすか。大したことを教えるわけでもねぇのに、高い学費払って行く意味がわかんねぇっすね」
だったら学校辞めりゃいいもんだけど、おばあが高校だけは出なさいってうるさくて。
出席日数足りなくて、留年かもだけどさ。
「そうか。……で、今日はどうした?」
分かったような顔してるくせに。
「昨日の哲さんとのことです」
回りくどいのはメンドいから、さっさと用件を切り出した。

