それからは毎日があっという間過ぎていき、その大半を僕は杏子と過ごした。僕らはどこに行くにも自然に手を繋ぎ、時にはキスをして、喧嘩もたくさんした。
人はこんなに誰かを好きになれるものかと、自分でも驚くほど僕は杏子が好きだったし、他のことなんて全く手に付かなくなっていた。会っていない時でさえ彼女を思ってしまう。

 
 一ヶ月ほどたったある日、僕は隣を歩く彼女に、あの夢の話の続きを話してみる事にした。

「前にさ」

「うん?」

「前に、夢の話ししただろ?小学校の先生。」

「あぁ、うん。」

「あの時は、夢なんてないって言ったんだけどさ。・・・俺、杏子とずっと一緒に生きて行きたい。結婚して、可愛い子供作ってさ。たまに会社の同僚とか連れてきて、みんなに杏子のこと自慢してさ。そうやってずっと、おじいちゃんおばあちゃんになってもずっと一緒にいたい。」

彼女は喜んでくれる、そう思っていた。でも杏子は不意をつかれた表情をしたかと思うと、

「ごめん、今日は帰るね。」

と、僕の手を振り解いて走って行ってしまった。呆気に取られた僕は、ショックで、ただ呆然とその場に立ち尽くしていた。
 その日、杏子からの連絡はなかった。そして次の日も、その次の日も。僕からメールをしても電話をしても一切返事はなかった。あんなことを言って怒らせてしまったのだろうか。付き合ってるつもりだったのは、好きだったのは、自分だけだったのだろうか。余計なことを言ってしまったことへの後悔と、姿を消した杏子への怒り、けれど会いたい寂しさと杏子への想いで、僕はもうどうにかなりそうだった。


 連絡が取れなくなって三度目の朝が来た。手元の携帯はさっきから『雅人』を表示している。そういえばサークルも全然行っていなかった。僕はベッドに倒れ込み、深い眠りについた。その日、僕は久しぶりにあの夢を見た。