「私は、こうして修一と話したり出来る今がずっと続いて欲しい。」

こうゆう時、理性なんてあっても全然意味がない。気付いた時にはもう、彼女を抱きしめていた。

「ちょっ、ちょっと痛いよ。」

身をよじって逃げようとする彼女を、もう一度丁寧に包み直す。

「好きだよ杏子。」

こうゆう時、理性が意味なくて良かったかもしれない。何度も言おうとした言葉がすんなり言えてしまった。腕の中でおとなしくなった杏子を、僕は長い間抱きしめていた。

どれぐらいこうしていただろう。

「あのぅ・・・。」

杏子が小さな声で切り出した。

「ん?」

「・・・トイレ・・・行きたい。」

その一言で、僕らは顔を見合わせて笑ってしまった。

「やばいやばい急げっ。」

僕は笑いながら彼女の腕を掴んで近くのコンビニへと走り出す。僕のマンションはちょっと距離があったし、正直、今日は部屋に二人きりになる自信はなかったから。
 コンビニを出たあと、僕はそのまま彼女をいつもの場所まで送って別れた。でも、二人の間の距離と空気は、今までとはちょっと違う気がした。
 冬はもう直ぐそこまで来ている。