それにしても、暑い。今日は八月二十五日。夏休みもまっさなかだ。先日、前期試験の結果が郵便で届いた。この悲惨とも言える結果を踏まえて、そろそろ後期の履修を考え直さなくてはいけない。僕の大学では前期と後期で履修を組み替えることが出来る。他の大学はどうなのかな。分からないけど。面倒くさいけれど、まぁその代わり、前期で落とした科目を後期で止めることも出来る。先輩に騙され、鬼のような先生を選んでしまった僕には救いの手だ。後期は真面目に考えよう。

 僕は毎朝軽いジョギングをするのを日課にしていた。いつもは六時に起きるのだが、今日は例の夢の所為で、もう一度寝る気にはならなかった。思い出すとまた不快感が込み上げてきた。

「ったく、なんなんだよ。」

そうぼやきながら冷蔵庫の牛乳を取り出し一気に飲み干すと、僕は勢い良くドアを開けて走り出した。
僕は走るのが好きだった。どんな嫌なことも走っている間は忘れられる。中学の頃始めたジョギングは、今ではもうすっかり習慣になっていて、嵐でもない限り、雨でも雪でも中止になる事はなかった。

「まるで宮沢賢治だな。」

いつだったかそんなことを友達に言われたこともあった。その時はなんだか馬鹿にされたように感じたが、今では宮沢賢治もかっこいいじゃないか、などと思ったりもしている。とは言っても、僕の成績は中の中だし、宮沢賢治とは程遠いけれど。

 一人暮らしを始めてから、ジョギングのコースはいつも同じだった。マンションを出て、駅とは逆方向に走り出す。前に一度駅の方に行ったことがあったが、駅前はもう通勤のサラリーマンが結構いてじろじろと見られたのが嫌だった。
 それからしばらくまっすぐ行くと川にぶつかる。そこを右に曲がって二十分ほど走ると、小さな公園がある。滑り台と、少し錆びれた白いベンチがあるだけの静かな公園だが、僕はここがとても気に入っていて、いつもこのベンチで一休みしてから折り返すことにしている。

 外の自動販売機でミネラルウォーターを買ってベンチに行くと、今日は珍しく先約が居た。真っ白なワンピースを着たその女の子は、退屈そうに本を読んでいた。肩にかかった少し茶色い髪は、風を弄ぶように揺れ、ページをめくる細い腕は太陽の光を集めてキラキラしていた。