私は店の奥に行く。


『あの』

「何でしょう」

『帽子…あるのですか?』

「ありませんよ」

嘘は嫌いです。

『あの』

「何でしょう」

『なら、わたくし、帰りますわ』

「何故」

襖越しの会話が続く。

『ないのでしょう?』

「ありませんよ」

『なら…、』

「必要なのでしょう?」

『…?』

「帽子、必要なのでしょう?」

『……はい』

「でしたら、もう少し待ってください」

『………』