「貴方に帽子は売れません」

『どうして…っ!?』

少年が顔を上げる。
次から次へと滴り落ちる涙は、とても大きな粒だった。

「今の貴方には、言葉が必要です」

『ことば?』

「"ごめんなさい"」

『"ごめん…なさい……"』

「先ずはきちんと謝りましょう。帽子はその後で十分です」

『…うん、』

「大丈夫ですよ。貴方なら、大丈夫」

『……ありがとう、おにいさん…』

ぴたりと止まった涙のかわりに、彼の綺麗な笑顔が零れる。

『ぼく、ちゃんとあやまるね。それから、なかなおりしたら、こんどはみあちゃんといっしょに来る−…』

「はい、お待ちしてますよ」

『雨、やまないね』

いつからか雨が降り始めていた。
とても静かな、優しい雨が。

「傘、お貸ししましょうか?」

水色の傘を差し出す。

『ありがとう、おにいさん』

少年は、私が持っていた傘を受け取ると、出口へ向かう。

『みあちゃんといっしょに返しに来るね』

「はい」

少年は店を出る。
何もない道を、歩いてゆく。