「こいつはだめだな」 ──獣医が呟いた。 閉めきった牛舎の中は5月だと言うのに蒸し暑く、小蝿が煩わしいほど飛び交う。 それでも、耳に残るのは羽音ではなく、規則正しい牛達の鼻息だった。 暑いなぁ。玉状の汗が首筋から背中を伝う。 頭の片隅で、何か別のことを必死で考える自分がいた。 今思えば、それはまるで現実味のない死刑宣告。 「生きてるのに」 無意識に呟いていた。