職人の娘。

違う。


違う違う違う…


さっき感じた温度差が、またあたしを支配していく。


「あたしさ、母親だけなんだよ。親。」


初めて気付いた。


誰かに、自分の身の上を話す事が恐ろしく嫌だ。


「お母さん仕事ばっかりで、いつも居なかったからさ。親の愛情って知らないかも。」


葉子は聞いてはいけない事を聞いてしまった、と言うような顔で視線を床に落とした。


「たまに会うのね、家で。だけど母親ってより父親で、口が悪くて、気が強くて。」


うん、うん、と黙って聞いてくれている。


「あたしの事で、仕事休んでくれたのって喧嘩して大騒動になってさ、謝りに行った時だけなんだよね−。本当意味不明じゃん?あたしの母親」


そう言って、笑ってみた。


人には理解できない考えのあの人を、他人に説明するのは予想以上に難しくて。


「あんたの親って、何の仕事してんのさ?」

「ラーメン屋だよ、あるじゃん、駅前の要って店」

「…行こ」

「は!?」


葉子の言葉に、声がひっくり返った。


「見たいよ、ほまれの親!!奢るから!!ね、行こ」


そう言うが早いか、あたしの返事など聞きもしないで、葉子はあたしを連れて家を飛び出した。


原付で駅前まで飛ばす。


近付くにつれて、気が滅入る。


お母さんに会うのは二ヶ月ほど久しぶりだ。


お互い出ずっぱりだから、会うわけが無くて。


二ヶ月前の私は、まだ荒れだす少し前の、比較的大人しい段階だったから…


金髪に化粧、原付に二人乗りで自分の娘が現れたら…今日こそ殺されるかも知れない…


あたしのため息を、風が横殴りにしていく。