「・・・あたし、お父さんに宏一を抱きしめてほしかった」
「うん・・・」
夏歩は昔物分かりが良い子だった。
「お父さんともっと話したかった」
夏歩は昔からあたし達が困るような我が儘は言わない子だった。
「・・・お父さんにもっと生きててほしかった・・・会いたいよ」
そんな夏歩が今までで1番な我が儘を言った。
もうこの世にはいない宏太に会いたいという我が儘。
宏太が死んで今までそんなこと一言も言わなかったのに・・・。
「あたし・・・お母さんにずっと聞きたいことがあった」
「・・・なに?」
「お母さん・・・なんでお父さんが死んでも泣かないの?」
「・・・ッツ」
「ねぇ、なんで涙を流さないの?悲しくないの?お父さんが死んで辛くないの?」
泣きながら夏歩があたしの肩を掴んで来た。
「・・・お母さんっ」
大声を出し、あたしの肩を何度も揺さぶる夏歩。
そんなことをするぐらい夏歩にとって宏太は大切な父親だったんだ。

