お母さんの左手には……
横と縦に…クロスするような切り傷が見えて。
ものすごい量の赤い血が、次から次へと流れ出ていた。
どうしよう……
どうすればいいの?
きゅ…
とにかく救急車だ。
慌ててリビングに行き、ガタガタと震える指で、119をダイヤルした。
『あのっ、あの…お母さんが…手首を縦と横に切って……血が…すごい血が……血が……』
電話に出た救急隊の人が、焦るあたしに、まず落ち着いて下さいと言う。
落ち着いてって……落ち着けるわけないじゃん…。
『住所、正確に教えて下さい』
『あっ、えっと…』
『大丈夫、ゆっくりで大丈夫だから』
あたふたするあたしに、救急隊の人は優しくそう言ってくれて。
あたしはようやく住所を伝えることができた。
『すぐに向かいます』
力強い救急隊の人の声で、一気に力が抜けていく。
あたしはその場に崩れ落ち、震える両手を一つに重ねた。



