GODDESS

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『ちーちゃん?』


小さい頃から時を共にしてきたあーくんと別れるのは悲しくて、

あたしは強いお姉さんのままいたかったから涙を見せたくなかった。


『“葵”ってね、あーくんママがあたしの好きな花からとってくれたんだ。』

『そうなの?』

『うん。』


向日葵が影を作り、あたしたちを太陽から守ってくれている。

それでも暑くて、だけど、あたしはあーくんと離れたくなかった。


『ちーちゃん、目、閉じて?』

『…どうしたの?』

『いいからっ!はやくっ!』


耳元で叫ぶあーくんを不思議に思いながら、瞼を閉じた。


『閉じたよ?』

『じゃあ、そのままでいてね。』


その言葉と同時にあたしとあーくんの身体の間に風を感じた。

そして、あーくんの熱がはなれた。


『あーくん?』


どこ行くの?


一瞬の不安が涙腺をおそう。

けれどそれはほんの一瞬で、


『もんだいですっ!ボクのすきなたべものはなんでしょう?』


すぐにあーくんの声がして、安心した。


なんだ、
簡単じゃん。


『“さくらんぼ”でしょ?』


そう答えたとき、トクンと胸が鳴った。

唇に触れた柔らかい感触。

蝉の声がガンガン耳をうっていたけれど、それよりも大きな音で、鼓動が胸をうっていた。

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