唇が離れても。
いつものような空気には戻らなかった。
……ううん。
もう、戻ることはないのかもしれない。
“あの日”みたいに記憶がないワケじゃない。
…郁との…。
…好きな人との甘い時間を知ってしまったから。
あれだけ唇が触れていても。
まだ物足りなくて。
郁から離れるコトができずにいる私がいた。
その時。
“あるもの”が私の視界に入った。
『…郁…』
俯き加減に郁の名前を呼びながら。
Tシャツの裾を掴んだ。
「…なに…?」
俯いてるから郁の顔は見えないケド。
左腕は腰にまわされてて。
右手は優しく私の髪に触れていた。
私は、意を決して。
郁の“自惚れたくもなるだろ”って言葉に。
私自身が“郁の気持ち”に自惚れを感じながら。
言葉を発した。

