半熟cherry


フッ。

唇の右端を持ち上げながら郁が言った。



「“あの日”はあんなに俺のコト、欲しがってくれてたのにな」



「指も声も。
視線すら他を見るコトを許してくれないほど。
俺を求めてくれたのに」



そう言いながら。

向かい合わせに座っていたはずの郁が距離を詰めてきた。

そして。

目を細めて微笑みながら。

そっと、私の頬に触れた。



『だ、だって私は…ッ』



もう、やめてよ。

せっかく線を引いたのに。



「…再会したのが学校だったってだけ。
始まりは…」



『“あの日”の私は記憶をなくすぐらい飲んでた。
正気じゃなかった。
自分で何を言って、何をしたのかわからない。
だから“ごめんなさい”を残したの!!』





これ以上。

自分にない記憶の鎖に縛られて。

私の心が壊れてしまわないように。

自分で気持ちを認めてしまわないように。



気持ちを吐き出した。