あの人がすぐ近くにいるというのに、わたしはそこで立ち尽くしてしまった。 霧雨が音もなく、髪を、頬を、くちびるを、服を、手を、足を湿らせていく。 目だけが、ゆらゆら揺れるビニール傘を追っている。 そのビニール傘が、なにかをあきらめたように、わたしがいるのとは反対方向に進みだそうとした。 わたしは、「あ」と声にだしていた。 ビニール傘が、また、揺らぐ。 「あ」