そして、背中を押してくれる。


「さぁ、行きなよ」


まだ間に合う、そう言う由貴。


不思議だね。


由貴がそう言うから大丈夫な気がしてきたよ…


「もしダメだったら、戻ってきて良いからさ」


冗談っぽく言った由貴は、どこか寂しそうだったけど

寂しいのは、由貴だけじゃないよ?


あたしは、確かに由貴に恋してた。


それが、ほんの一瞬だったとしても、由貴に恋してた。


ありがとう、由貴。


「ありがとう」


行ってきます。


優しい由貴の笑顔があたしを強くしてくれた。


ちゃんと、伝えてくるから。


…──────


「斗真…!」


何時間待ってくれていたんだろうか。


約束の時間なんて、とっくに過ぎているっていうのに。


ベンチにうずくまるあなたの姿。


雨が降っているっていうのに…傘も差さずに。


あたしは折り畳み傘を開く。


「…はい」


差し出すと、驚いたようにあたしを見上げる斗真。

「…バカじゃないの …なんでまだ待ってくれているの?」


泣きたいわけじゃないのに。


溢れ出てくる涙。


「…っ…なんで傘も差してないのよ…」


本当にバカだよ。


でも、斗真は笑うと


「もものことで頭いっぱいでなんも出来なかった」


ずるいよ。


ずるすぎるよ。


あたしは傘を投げ捨てると、冷たく濡れた斗真を力いっぱい抱き締めた。