『どこに、そんな力がある…?それ程に、果てるのがイヤか。』
「……。」


赤ん坊は答える事すら出来ずに、指を握り締めたままでカクンと頭を垂れた。
弥勒は即座に群がる死神を払いのけると、その冷えた体に自分の上掛けをかけて抱き上げた。


軽かった…。


一体、どれほどの時をこの狭い箱庭で過ごしたのか、想像するにあまりある。
赤ん坊を抱え直し、弥勒が向かったのは知り合いである料理人の屋敷だった。









『阿修羅、邪魔するぞ。』
【返事をする前に入るなら、せめて玄関からにしませんか?主。】


三階の窓から進入した弥勒を出迎えたのは、カラスの塗れ羽色の髪を持つ男。弥勒が下界に降りて来るまでは、側仕えとして毎日顔を合わせていた。


名を阿修羅と言う。


仏界では討伐部隊をまとめる任についていたが、弥勒や愛染達が下界に降りる事になった為に監視、謙世話役として共に下界に降りて来ていた。