二月、冬も真っ直中という季節に着物姿でフラフラと歩く青年の姿があった。
男と言っても、只の男ではなくその喉元には奇妙な印が浮かんでいる。それは、神である事の証で…青年が人ではない事を示すためのものなのだ。

では、何故そんな印を持つ者が人間の住む街に降りて来たのか…。


話は2か月前にさかのぼる。




『偵察?』
[そうじゃ、1人では無い。安心せい。]
『誰がそんな心配をするものか、私が言いたいのは何故私がわざわざ偵察に行かなければならないか。その一点につきる。』
[やれやれ、お主はほんにわがままじゃな。]


仏界にて、のんびりと休暇を楽しんでいたこの男の元に、茶飲み友達の大元帥からそんな話を持って来た。
その事実が余程不快らしい弥勒は、点てられた茶には見向きもせずに淡々と言葉を返している。


[仕方なかろう、下界を見守るのがお主の任なのじゃ。]
『アンタが行くなら行ってもいいが…?』