香椎くんに連れられながら、私は周りをふっと見回した。
見慣れたはずの風景。
けど、こうしてゆっくり歩くことも、周りを見ることも私あんまりしてこなかった。
ただ前を向いて。
前だけを向いて。
周りになんか気を回すことなく、ただ真っすぐ前だけ向いて歩いていた。
そうだな。
見ていたとしたら、ずっと前の道路?
だから『ああ、こんなところにこんな店があったんだ』とか『この家、かわいいな』とか『キレイな花、沢山植えてあるな』とか『今度あのお店に買い物しに来たいな』とか。
そういうの、全然思ったことがなかった。
見慣れた風景が今、すっごく新鮮で。
ゆったり歩くのも、周りを見て歩くのもいいことだなって。
たまにはこういう自分がいるのも、こういうことをするのもいいことだなって。
素直にそう思う。
ねぇ、香椎くん?
これってキミ、意図的にしてるの?
香椎くんは相変わらず前を向いたまま、私の方を見なかった。
なんか、それはそれでちょっと寂しい気がして……私は香椎くんから顔を背けて下を向いた。


