黙ったまま香椎くんが歩くから。
私も黙ったまま付いていく。
握った手は本当にやんわりと包むだけだから。
振り払おうと思えば払えるんだ。
なのにできない。
したくない。
おかしいけど、私。
香椎くんとこうしていると落ち着くんだ。
もちろん、ドキドキはしてる。
だけどそれは最初のうちだけで、ずっとこうして握られてるとすごく心地よくて。
温かくて。
誰よりも傍にいたい……なんてことをどこかでぼんやり思っちゃってる。
まだ何も知らない。
正体不明で。
危険極まりなくて。
なのにこの人がいいなんて矛盾してるのもいいとこなんだけど。
でもきっと私。
『この人』がいいんだって。
そう思うの。
ふと隣の香椎くんを見る。
ゆっくりとした歩調。
ただのんびりと歩く香椎くんの顔。
それは本当に穏やかで、優しくて。
瞬間、胸がきゅんっと音を立てた。
そして呟きそうになる。
『スキ』
そんな一言を……


